僕の妹が神殿騎士にさらわれました

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僕の妹が神殿騎士にさらわれました

               

               

勝利条件:神殿騎士イズルードを倒せ!

               

▼ED後イズルード生存ルート
▼ラムザが重度のシスコンです
▼READY?

               

               

 僕の名前はラムザ・ベオルブ。僕には妹がいる。彼女の名前はアルマ。はちみつ色の濃いブロンドの巻き毛に赤いリボン。赤い靴に赤いバレッタ。僕の妹のコーディネートは素晴らしい。上から下まで完璧だ。彼女には鮮やかな色がよく似合う。でもどんなドレスを着ていたって彼女は愛らしい。僕の天使だ。『聖天使』の称号をアジョラにくれてやるつもりはない。僕の妹こそが聖天使なのだから。
「ラムザ兄さん」
 僕と妹は年が一つしか違わない。でもいつだって彼女は僕のことを兄と慕って僕のあとをついてくる。僕のうしろをくっついて歩いてくるんだ。彼女は赤い靴をはいているからね。Moveが+1もあるんだ。すごく可愛いんだよね。

               

               

 僕たちがこうして家族で一緒に暮らせるようになったのはつい最近のことだ。戦争の悲劇が僕たちを離ればなれに引き裂いた。実は、アルマがアジョラの魂を持っているというんだ。僕の妹の身体を無断で使ったアジョラが許せない(殺したけど)。けれど、僕はさらわれた妹を自分の手で連れ戻した。<僕が>助け出したんだ。妹に手を出した男は、皆死んでいった。妹をさらおうとした骸旅団の戦士はザルバッグ兄さんが殺したけれど、ウィーグラフは僕が殺した。ザルモゥも僕が殺した。イズルードは一人で死んでた。ヴォルマルフは僕が殺した。奴らは皆、僕の可愛い妹に手を出そうとしたろくでもない連中だ。当然の報いだ。
「兄さん、こうしてまた一緒に暮らせるなんて私は嬉しいわ」
「僕もだよ、アルマ。僕の家族はもう君しかいないんだ。これからは二人で、ずっと一緒に幸せに暮らそう――」
 僕は妹を抱きしめた。僕は今までずっと傭兵として生きてきた。あの砦の悲劇のあと、僕は全てを捨てて逃げ出してしまった――ベオルブ家の全てを――家族を――<アルマのことを>――僕は間違っていた。けれど英雄王は亡き妹の形見のペンダントを生涯手放すことはなかったという……そう、ディリータは正しかった。僕は間違っていた! アルマと離れて暮らすなんて!
 こうして家族と抱き合うあたたかさを味わえるのは何年ぶりだろう――

               

               

「アルマ様――」
 僕たちの二人だけの穏やかな生活に、ある日突然、静かな来訪者がやってきた。
 暗闇に溶け込むようなダークブラウンの髪の青年。物静かな紳士だ。
「イズルードさん! 会いにきてくれたのね」
 心から再開を喜ぶ妹の顔。幸せそうな笑顔が二人の間に交わされた。アルマが僕の知らない、やわらかな表情を彼に見せる。
 僕の知ってるイズルードは神殿騎士だった。修道院で血みどろの殺し合いをした記憶は未だ鮮明に残っている。
「あの時の神殿騎士か! また懲りずに妹をさらいに来たのか!」
「とんでもない! 騎士として、あのような非礼はもう二度と働きません」
 彼は深々と頭を下げた。
 この礼儀正しい青年は一体誰だ?
 修道院で殺し合いをしていたあの絶望の騎士はどこへいってしまったのだ?
「アルマ様。もっと早く会いにきたかったのですが……まさかゼラモニアにいらっしゃるとは思わなくて。ガリオンヌにあなたのお墓があります。私は、てっきり……あなたがもう二度と帰らぬ人になってしまったのかと……」
 イズルードが僕の妹に丁重に話しかける。まるで深窓の姫君に忠誠を誓う騎士のようだ。アルマも満足そうにしている。騎士……僕がどんなにイヴァリースを奔走しても、ついに手に入らなかった称号だ。見習い騎士のまま陰の英雄になった僕が、今、どんな表情で彼のことを見ているか分かるだろうか。……羨ましい。
「ああ、ラムザ、また会えて嬉しいよ。元気にしていたかい?」
 イズルードがくだけた口調で僕に言った。アルマには敬語で話してたのに。同じ兄妹なのに扱いがまるで違う。神殿騎士め。今ここでオーボンヌ修道院地下書庫三階の再戦をしても良いんだぞ?
「すまない、父さんが迷惑をかけたみたいだな」
「うん、すごい迷惑だった。妹をさらうとかやめて欲しい。父子で誘拐するなんて気が狂ってるとしか思えなかった」
「数百年ぶりに会えてテンション上がっちゃったて父さん言ってたし……姉さんから聞いたよ。父さんはアルマ様(の身体を借りた聖天使)のために命を捨てたと」
「ああ……確かに君の父上はすごい人だった。まさか自ら腹を裂くとは。これがガフガリオンの首をせせこましく700ギルで買い、僕の兄さんをゾンビにした暗黒神殿騎士の死に様かと思うと僕も驚いたよ。でも、できれば僕にとどめを刺させて欲しかったんだけど。ところで、僕はさっきからものすごい違和感を感じてるんだけど……君を殺した父親の話を君と語り合うのはおかしくないかい?」
「何を言っているの、兄さん! おかしくなんかないわ」
 ルカヴィの首魁たる統制者に命を捧げさせた僕の可愛い妹が言う。僕の妹がそう言うのなr……いや、おかしいだろ。
「イズルードさんは言ってたわ。『疲れたから少し眠る』と……それだけのことよ」
「……それはファーラムの婉曲表現だって知ってるかい?」
 しかも僕は君の姉さんに剣を壊されたんだけど。弟の魂の代償だと謂わんばかりに――返してくれッ僕のブラッドソード! ガフガリオンの忘れ形見だったんだ!
「兄さん……私はイズルードさんにさらわれてリオファネス城に行ったの」
「知ってるよ。僕はあそこで何十回もウィーグラフと戦ったから、よく知ってるよ」
「確かに、私とイズルードさんの出会いは最悪なファーストインプレッションだった……でも、私たちがリオファネス城に辿りつくまでに、【あんなこと】や【こんなこと】があってね――」
 くそッ神殿騎士め! 僕の妹に何をしたんだ!
「――それからね、リオファネス城には一体いくつの聖石があったと思う? (イズルードさんの)パイシーズ、(イズルードさんが盗んできた)ヴァルゴ、(ヴォルマルフさんの)レオ、(ウィーグラフさんの)アリエス、(エルムドア侯爵様の)ジェミニ、(兄さんから貰って海に捨ててこなかった)タウロスとスコーピオ。これだけの聖石があったら奇跡の一つや二つが起こってもおかしくないでしょう?」
「ああ……その通りだ……聖石が7/13個もあったなら人間が一人生き返ろうと、リオファネス城の兵士が全滅しようと全くおかしくない……だけど……」
 ……もっと大変な奇跡が起きてしまった!
 妹が……僕の可愛い妹が……僕だけを癒しの杖で殴っていたあの可愛い妹が……いつの間にか恋する一人の女性になってしまった! ファーラムッ!

               

               

「ラムザ、彼女と二人で話がしたいんだけど、いいかな? 俺は彼女をさらいにきたのではなく……君の許可をもらいにきたんだ。妹さんを私にください、と……」
「断る――イズルード、君はまた僕と殺し合いをしたいのかい?」
 戦闘の準備はできている。僕はもう二度と妹を手放さないと誓ったのだから!
「兄さん、血迷っちゃだめ!」
 アルマ、君の方が間違っている! こいつは正真正銘、君をさらいにきたんだ!
 この神殿騎士は僕に勝てると思っているのか――ならば力ずくで阻止するまでだ!

               

 READY……

               

「ラ、ラムザ! よく聞いてくれ! 俺たちの目指す場所は同じはず――そう、『家族』だ。俺の義兄になってくれないか!」
 家族! その言葉に僕は手を止めた。
「僕のことを兄と呼べるのはアルマだけだ……家族と呼べるたった一人の肉親なんだ」
 アルマだけなんだ。父も兄も死んでしまった。僕に残された家族はもう彼女しかいない。
「分かるよ、その寂しさ。俺のところもそうだった。もう姉さんしかいないしさ……父さんはアレだったし、騎士団の仲間たちもアレだったし……」
「だったら君も分かってくれるだろう。たった一人の家族をとられてしまう寂しさを――君も想像してみてくれ。毎日一緒に過ごしてきた姉さんがある日知らない人の家に嫁いでいってしまったら……」
「姉さんが?」
「そう、メリアドールさんが結婚したら、やっぱり寂しいだろう?」
「恐喝の香水[シャンタージュ]をつけて大剣[セイブザクィーン]を振り回している姉さんが結婚したら寂しいかって?」
「あ、ごめん……家庭事情はだいぶ違ったみたい」
 僕が妹のことをどれほど愛しているのか、彼に伝わったのだろうか。僕の妹への愛はゲルミナス山脈より高くて、バグロス海より深いのだ。
「もう! 兄さんったら、大げさよ」
「アルマ……でも父上が生きていたら絶対こう言うはずだよ。『こんなに可愛い娘は誰にも渡さない』と。兄上たちが生きていてもこう言うはずだ。『こんなに可愛い妹は誰にも渡さない』と。シド伯爵も言っていた。『こんなに可愛い娘は誰にも渡さない』と。僕だってこう言う。『こんなに可愛い妹は誰にも渡さない』と」
「ラムザ、俺は――」
 イズルードが言いよどんだ。
「イズルード。僕はアルマが止めさえしなければ君とここで再び剣を交えてもいいんだ。オーボンヌ修道院地下書庫三階の再戦をするかい?」
「では、アルマ様……あなたはどうなのです?」
 イズルードは僕ではなく、僕の妹に話しかけた。
「私の愛を受けてくださるのですか? だとしたら、私はあなたのお兄様の許可をいただきたい――今ここで、あなたの手をとってもよいと」
 ずるい。そんな風に言われたら――
「兄さん――私の愛する兄さん。私はイズルードさんと一緒にいたいの。彼のことを、愛しているから……」
 そんな風に言われたら――僕はうなずくより他はないじゃないか。誰よりも愛する僕の妹の頼みなのだから、笑顔で送り出すのだ。
 愛してるよ、アルマ。どうか幸せになってくれ。心からの祝福を――

               

               

 俺の名前はイズルード・ティンジェル。教会の騎士だった。彼女――アルマ・ティンジェルと出会えたのも、俺が神殿騎士だったからだ。でも戦争の数奇な運命に巻き込まれ、俺たちは離ればなれになり――そして、どういう星の巡り合わせか、あの時オーボンヌ修道院で血を流しながら激闘をした異端者のことを「義兄さん」と呼んで、一緒に食卓を囲んでいる。
 俺が「義兄さん」と呼ぶとラムザは神妙な顔をする。
「まだ慣れなくて……だって僕のことを兄と呼んでくれるのは家族だけ――アルマだけだったから」
「すぐ慣れるさ。ラムザ、君が俺を家族に迎え入れてくれたんだ。さあ、一緒に食事をしようじゃないか」
 家族と一緒に食卓を囲めるもが、こんなに嬉しいことだったとは。少しばかりのパンとスープだけの慎ましい食事だ。でも幸せだ。だって、愛する家族と共に食卓を囲むのだから。
「イズルード、今だから聞くけど、どうして僕の妹を選んでくれたんだ?」
「理由が必要か?」
「僕は兄だ。もちろん、知りたいさ」
「そうだな……彼女は、明るくて朗らかで、そしてすごく可愛いんだ」
「うん、そんなことは言われるまでもなく知ってる」
「ラムザ、君は人生が嫌になったことはないか? こんな望まぬ戦乱の時代を生き抜くことに嫌気がさしたことはないか? ……俺はある。与えられた使命が嫌になった。何もかもに絶望して、闇に身を委ねようとさえ思った」
「僕だってあるよ。だから、僕は逃げ出したんだ。君と出会うずっと前のことだけど」
「俺は逃げたくても逃げられなかった……だけど、その時、彼女に出会ったんだ。こんな悲惨なイヴァリースを見ても希望を信じ続けられる明るさに俺は救われた。あの時、彼女はこう言った。『私は、私が生まれたこの時代が好き。そして、このイヴァリースが大好きよ!』と。そんなことを言うひとに初めて会った。彼女に出会えたから、俺は絶望することなく、信念を持ち続けることができた。だから……愛しているんだ」
「……ああ、その言葉を信じるよ。僕も君と出会えてよかった――さあ、スープが冷める前にみんなで一緒に食事をしよう。アルマを呼んでくる」
 家族そろってか、か……幸せな響きだ。ラムザがアルマを呼びにいった。一人になったその時に、俺はもう一つの『家族』のことを思った。そこには、何があろうと消えない絆がある。
 ――父さん、俺の妻を見てください。誰よりも可愛くて、純粋で、朗らかで、強い信念を持った妻なのです。俺だって父さんみたいに彼女のことを『聖天使』と呼びたい(本当に天使のような子なんです)。だけど、もう血を捧げる必要はない。じゃあ、何を捧げるのかって? それは……
「イズルードさん!」
 アルマがラムザと一緒に手をつないで戻ってきた。この兄妹は何があっても変わらないな。やはり『家族』の絆は不思議と消えないものだ。
「食事の前に乾杯しましょう――私たちの家族に」
 高く掲げた杯の中には並々と注がれた葡萄酒――もう戦争は終わったのだから、愛を語るにはこれで十分なのだ。

               

               

▼Congratulation!

               

               


・イヴァフェス3開催記念FFTアンソロジー「畏国回顧録」寄稿作品
・FFTの20周年のお祝い作品でした

              

2017.9.23