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・死者の魂を呼び戻すという秘薬。ゼラモニア独立運動(FFTのED後)に携わっているラムザとアルマ&イズルード(故)で思い出語り。
・カップリング要素…ラムザ→アルマ→イズルード→ウィーグラフ 片思いの連鎖… 

 

 
◆ゼラモニアについてmemo
0)鴎国と畏国の間の地域(ゼルテニアの隣)で鴎国に併合される(五十年戦争の1世紀前) 
1)オルダリーアの属州にして五十年戦争の発端の地 
2)ラムザ&アグリアスは獅子戦争終結の後(EDから約5年後?)、ゼラモニアの独立運動に関わっている
3)ディリータがそこに派兵 
*ディリータのゼラモニアへの派兵についての解釈は、「(鴎国の軍事力を削ぐため)独立運動の支援」(ラムザとディリータの協力)でも良いのですが、小説では「(畏国の治安を守るため)独立運動の鎮圧」(ラムザとディリータの敵対)だと思って書いてしまいました。でも前者の説明の方がすっきりしますね^ω^;

 

 

 

反魂香

 

 

 

「死者の魂を呼び戻す秘薬?」
「そう、この香木を焚くと、その香りがあるうちは亡き人の魂を再びこの世につれ戻すことができるらしい」
「でもそれって、危険なことじゃないの? だって私は知ってるもの、聖石が魂を呼び戻す時、誰かの身体が犠牲になっていたもの。私はもうそんな光景は二度と見たくないわ」
「アルマ、これはそういうものじゃないんだよ。魂を肉体に宿らせるんじゃなくて、去っていってしまった魂をほんの少しだけこっちの世界に呼び戻してくれるんだ」
 兄は市場で珍品を見つけてきたらしい。アルマは半信半疑だった。死者を蘇らせるとか、魂を呼び戻すとか、そんな胡散臭いものには何か裏があるだろうとアルマは思っていた。アルマは兄と共に、祖国イヴァリースを離れて鴎国のゼラモニア州で暮らしていた。ここゼラモニア州では、イヴァリースとオルダリーアとの大国に挟まれて陸路での貿易が盛んであった。そのため、得体の知れない珍品も時々市場に流れてくる。きっと、兄もそうしてこの香木を手に入れたに違いない。
「アルマは、誰か会いたい人はいないのかい?」
「そうね……私は兄さんが居てくれればそれで十分なんだけど」
 兄の顔がぱっと輝いた。兄妹は、異国の地で二人よりそって暮らしている。アルマは今の暮らしが十分幸せだった。故郷の戦乱で亡くなった人は大勢いた。アルマは彼らのことを一人一人思い出しながら、追憶に浸った。――もし、この香木が本物ならば――ここにその魂を呼び戻せるとしたら――

 * * * 

「また会えるなんて嬉しいわ、イズルード!」
 戸口に若い男が立っていた。短く刈り上げた茶髪に、僧服姿をした男は、どうしてここへ来たか分からない様子で所在なさげにしていた。そんな彼をアルマ喜んで迎え入れた。
「ここはゼラモニアの私たちの家よ。私があなたを呼んで招待したのよ、イズルード」
「私たち?」
「そう、私と兄さんとで一緒に暮らしているのよ」
「兄妹二人暮らしか……君たちはずいぶん仲がいいんだろ? 夫婦みたいに仲睦まじくやってるのが目に浮かぶよ」
「やだ、夫婦なんて言い過ぎよ」
 そう言いながらもアルマは嬉しそうに、兄さん、兄さんとラムザを呼びに家の中へ入っていった。その様子を見てイズルードは安堵した。
「よかった、兄と再会できたんだな」
 彼にはアルマに対する責任があった。彼はアルマを兄ラムザのもとから引きはがし、拉致しようとしたのだった。彼はその当時、崇高な理想に燃えており、理想の実現のためには多少の犠牲はやむなしと考えていたが、今となっては騎士道に反する行動だったと感じていた。彼女に対して紳士的な振る舞いを欠いたことに、彼はいくらかの罪悪感を抱いていた。計画が頓挫し、彼女を戦場であるリオファネス城に放置してきてしまったことも、彼の心を痛ませていた。けれど、どうやら彼女はそこから無事生還して兄と再会できたようであることをイズルードは知り、それは彼の心を落ち着かせた。
 しかし、一つだけ腑に落ちないことがあった。
「アルマはどうして今更、オレを呼び出したんだ――?」
 手荒な方法でさらったことを、非難するつもりだろうか、と彼は思った。

 * * * 

 妹から男を紹介された。
「この人はイズルード」
 知ってるよ、とラムザは心の中で思った。自分がかつて剣を交えた騎士だ。不幸な事件に巻き込まれてリオファネス城で果てた若い男だ。
「兄さんの言っていたことは本当ね。この香木は本物だったわ」
 妹がそんなにも会いたかったというのはイズルードだったのか。戦乱で死に別れた女友達と再会を喜ぶのだろうとばかり思っていたラムザは困惑した。一体、どうしてこの騎士なのか。彼とは、たった数日一緒に過ごしていただけだろう。それとも、たった数日だけしか共にしていないというのに、“そういう仲”なのだろうか。妹から今更若い男を紹介されるとは思っていなかったため、ラムザは戸惑っていた。
「アルマ、一体オレに何か用があったのか……?」
 ラムザが彼女に聞く前にイズルードが尋ねた。至極控えめな素振りだった。
「どうして? 理由がなかったらいけないの? 私はあなたにもう一度会いたいと思っただけよ」
 彼女は迷うことなくさっと答えた。しかし、顔をわずかに背け、誰とも目を会わせないよう視線をさまよわせた。答えるほんの少し前に、頬に赤く染めたのをラムザは見逃さなかった。ラムザは彼女と暮らしていた。兄妹の絆は消えることなく、彼女はいつもラムザの可愛い妹だった。けれど、その時、彼を前にしたその時、彼女は彼の妹ではなかった。一人の女だった。
 彼らをその場に残して、自分が退席するべきだろうとラムザは思った。けれど、同時に、彼らを二人きりにしておきたくない、とも思った。名付けられない、その感情に従って彼はイズルードを誘い出した。
「少しの間、外で話そうか」
 彼はその申し出に応じた。
 

 * * *

 外は彼の知らない国だった。イヴァリースで生まれ、故国から出ることのなかったイズルードにとって、ゼラモニアの光景は新鮮だった。家や町並みに大陸の文化がかいま見られた。
 イズルードが聞いたところによると、ラムザはゼラモニアの独立運動に関わっているらしかった。
「ゼラモニアの歴史は知っているだろう?」
 ラムザが尋ねた。イズルードはうなずいた。
「もちろん。ここは常に戦争の火種になっている」
「独立の夢叶わずに鴎国に併合されたのが一世紀前。それから畏鴎戦争が五十年。そして僕たちの国の戦争があって、イヴァリースはゼラモニアから撤退した。ゼラモニアは数百年の間もオルダリーアの圧政の下だ」
「それで、ラムザはゼラモニアの独立運動を支援していると?」
「これまでずっとイヴァリースは、ゼラモニア独立の支援を続けてきたけれど、独立支援なんていうのは建前だ。本当はオルダリーアへの侵略を考えていただけさ。この国はイヴァリースとオルダリーアという大国に挟まれて、戦場として蹂躙され続けてきた。僕はイヴァリースに生まれた。ゼラモニアの歴史には責任があるんだ」
 年はとっくに二十歳を超えて、彼はいくつになっているのだろうか。イズルードは、淡々と語るラムザの声を聞いていた。確か、自分と彼とは年はそう離れていなかったはずだ。修道院で初めて顔を会わせた時は、お互いにまだ若い少年だった。理想に燃え、それぞれが正しいと信じるもののために戦っていた。
「ラムザ、オレは君と剣を戦わせたことがある。だけど、君といがみ合っていたとは一度も思っていない。君はゼラモニアの虐げられた人々のために戦おうとしている。オレは君の精神に敬意を払っている。あの時から、今も変わらずそう思っているよ」
 理想を掲げて、虐げられた民のために剣を取る。それが騎士のあるべき姿であるとイズルードは思っていた。ラムザはその志を持った人間だ。たった数回剣を交えただけでも、それを知ることが出来た。けれどラムザと会う前から、理想を掲げて戦っていた騎士をイズルードは知っていた。彼はラムザと同じ金髪、ガリオンヌの出身、貴族をくじく精神を持っていた。そして内に激しい魂を秘めていた。イズルードが尊敬し続けたただ一人の男だった。
「ウィーグラフ……」

 * * * 

 イズルードが物思いに沈んでいる頃、ラムザもまた別のことを考えていた。
「イズルード、僕は崇高な精神のために戦っていたわけじゃないんだ」
 しかし、その言葉は彼の耳には届いていないようであった。
 ――僕は……大儀を掲げて戦ったわけじゃない。家族を、アルマを守りたかっただけなんだ……。もしあの時、修道院でディリータの姿を見なければ、僕はきっと戦争には関わらなかった。過去を捨て、家を捨て、名前を捨てて、そのまま逃げ続けていたかもしれない。
 ――ゼラモニアに居るのだって、本当はイヴァリースを追われてきたからだ。僕はもう二度とイヴァリースには帰らない、帰れないんだ。僕たちのことを誰も知らないこの土地で、僕はアルマと二人で平和に暮らそうと思っていた。独立運動のことを知らなかったわけじゃない……でも本当はただイヴァリースから逃げたかっただけなのかもしれない……。
 ラムザはこのことをイズルードに伝えられなかった。彼は自分のことを今でも理想を共にする同志だと思っているらしい。ゼラモニア独立のことも、彼はもしかしたら理想のための革命を起こせるのだと思っているのかもしれない。けれども、ラムザは過酷な現実を知っていた。かつてはオルダリーアの勢力を削ぐために独立を支援したイヴァリースが、今度は民衆の独立運動が自国に飛び火するのを恐れて派兵しようとしている。イヴァリースの英雄王自ら挙兵するとの話をラムザは聞いていた。ロマンダには英雄王に地位を奪われて亡命中の王子もいる。このままゼラモニアの独立運動が拡大すれば、周辺諸国を巻き込んでの争乱に発展するだろうことは容易に想像できた。けれどそうなった時、どう動くべきなのかをラムザはまだ想像できずにいた。もはやラムザ個人の力
ではどうにもできない問題になっていた。
 しかし、この夢見がちな青年にどうして本当の事が言えるだろうか?
 その時、イズルードがある名前をつぶやいた。
「ウィーグラフ……」
 ウィーグラフ・フォルズ。その名前を聞いてラムザは背筋が凍り付いた。その男はラムザを何度も殺しかけた、因縁浅からぬ者だった。
「もしウィーグラフが生きていたら、ゼラモニアの問題だって黙ってはいなかっただろうに。あいつは本当にすごい騎士だった。同じ神殿騎士として少しの間だけでも肩を並べられて光栄だった」
「うん、あの人はすごかった……僕はあの人の剣技にはとてもかなわなかった」
 ラムザがそう言うと、イズルードは同輩を賞賛されて嬉しかったのか、どこか誇らしげな顔をした。
「そう、ウィーグラフはすごい奴だった。オレは今でも心から尊敬しているよ。オレと同じゾディアックブレイブだったけれど、あいつはオレと違ってずっと苦労してきたんだ。イヴァリースのために戦ったのに、王家に裏切られてガリオンヌではかつての仲間と家族を失ったと聞いた」
 ――骸旅団を壊滅させ、彼の妹を殺したのは僕と、僕の兄たちだ。
「でも、ウィーグラフは剣を棄てず、ミュロンドに来て、信仰のために戦った。聖石が悪魔の力を宿していたとは誰も知らなかったが――ラムザ、君が正しかったよ――それでも、オレたちはあの時、貴族たちから平等を勝ち取ろうと戦っていたんだ。今もその気持ちは変わらない。ゼラモニアの困窮を前にして、オレもこのまま黙ってはいたくない。出来ることなら、君の力になりたかった。きっとウィーグラフもそう思っているだろう。民衆が立ち上がるための土台を築こうとしていたのだから」
 ――でも、あの時、確かにウィーグラフはこう言った。私を教会の犬と呼ぶが良い、と……。
「だけど、オレはウィーグラフを見捨ててきてしまったんだ。オーボンヌ修道院で、瀕死のウィーグラフを振り切ってその場を去った。それが心残りだった……。あの時は、あれが最善のことだったのかもしれない、だけど共に戦った戦友をあの場に残して一人立ち去った申し訳なさが残った。あの後、リオファネス城に行ったが――この経緯は君も知っているだろうが――そこで何度もウィーグラフの幻を見たよ。ここに居るはずもないのに、何度か彼の姿を見た気がする。幻覚を見るほどオレはウィーグラフのことを思っていたのかもしれない。――だから、ラムザ、どうか教えてくれないか。ウィーグラフの最期を知っているのは君だろう? 君があいつを討ち取ったんだろう、ウィーグラフはあの後、修道院でどうやって最期を迎えたんだ……?」
 ――そうだ、君の言うとおり僕がウィーグラフを討ち取った。だけど、そこはオーボンヌ修道院ではなく、リオファネス城だ。君が見たというのは幻じゃない、おそらくウィーグラフ本人だ。いや、彼はもうすでに聖石と契約を結んでいたから、ウィーグラフ本人ではないかもしれない……。
「ラムザ? どうしたんだ?」
「ああ、何でもないよ……」
 ラムザはイズルードに何も答えられなかった。イズルードを殺したのは、悪魔になり果てた彼の父親だった。ラムザは思った。もし、彼が、彼の敬愛するウィーグラフもが彼の父親と同じ道に墜ちてしまったと知ったらどう思うだろうか。父親に剣を向けたように、盟友にも同じように剣を向けただろうか。父親にそうしたように、変わり果てた友の身体に剣を突き立てたのだろうか。
 ――アルマ、今更どうして彼を呼んできたんだ。夢から覚めて、悲惨な現実を知って打ちひしがれるだけだというのに。僕は真実を知っている。だけどそれを彼には伝えられない。
「ラムザ? ウィーグラフは……」
「あの人は……最期まで僕の好敵手だった。僕の人生に影響を与えた人だったよ。あの人なしには僕の人生はなかったと思う。お互い、最後まで全力を尽くして死闘した。……最期は、妹さんのことが心残りだと言っていたかな……」
「そうだったのか。ラムザ、君がウィーグラフのことを認めてくれて、オレも嬉しいよ」
 ――知っているかい、イズルード? 君が敬愛するウィーグラフの、家族を殺して、彼を復讐に駆り立てさせた発端は僕にあるんだ。君はそんなことを露ほども知らないとは思うけれど……
 ラムザはイズルードに、ウィーグラフが聖石と契約を交わしていたことは言わなかった。彼の中で、ウィーグラフは永遠に高潔な騎士として生き続けることだろう。
 イズルードが理想高き誠実な騎士であることをラムザは十分理解していた。ゼラモニアの民衆運動にも、喜んで身を投じることだろう。妹を暴力にまかせて修道院から連れ去ったことは許し難い行為であったが、しかし、平素の彼はそれほど猛々しい性格ではなかった。むしろ、ラムザの知り合いの中では剣を持つ人間としては穏和な方であった。この期に及んで、凄惨な現実を突きつけて、この青年を絶望の淵に追いやるつもりはなかった。
 ――この男がアルマをさらっていった。そしてたった一瞬でアルマの心を奪ってしまったのだ。
 果たしてそのことにイズルードは気づいているのだろうか、とラムザは思った。
「アルマは君にずいぶん会いたがっていた」
 ラムザがそう言うと、イズルードは居心地が悪そうに言った。
「あの件は……本当に申し訳ないことをしたと思っている。アルマは、そのことをまだ怒っているだろうか……?」
 いや、それどころか君に好意を抱いている、とは言わなかった。代わりに「多分怒っていないと思う」と答えた。
「それは良かった。彼女には感謝している。そのことを伝えておいて欲しい」
 じゃあ、お互いよい旅路を、と言ってそこで彼とは別れた。何に対して「感謝している」のか、ラムザは分からなかった。けれど彼の言葉はそのまま妹のもとへ届けた。

 * * * 

「そう、イズルードはそんなことを言っていたのね」
 アルマは呟いた。せっかく再会の機会があったというのに、ろくに言葉を交わす間もなく再び彼は去っていってしまった。兄たちは外でずいぶん長いこと話していた。何を話していたのだろう、とアルマは思った。私も一緒について行けばよかったかしら。
「イズルードはこう言っていた、感謝していると。アルマ、そろそろ教えてくれないか。彼とはどういう関係だったんだ?」
「あらやだ、兄さん、もしかして嫉妬しているの?」
 兄がイズルードに何かしらの感情をあおられていることは確かだった。
「アルマ、僕はそういうつもりで言ったわけでは……」
「兄妹なんだから、兄さんが何を思っているのかは言わなくても分かるわよ。でも兄さんは勘違いしている。私たちは、イズルードとの間には、何もなかったのよ――だってよく考えてみて。私たちが一緒に過ごしたのはたった数日だったのよ。それも、私は誘拐されたのよ。“何か”を育むような楽しい逃避行ではなかったわ」
「彼は“感謝している”と。何もなかったわけじゃないだろう?」
「感謝されるとしたら、それはきっと、私が彼の最期を看たからよ……あの人は、私をさらった誘拐犯だったけれど、一人孤独に絶望の中で死を迎えるのはあまりに可哀想だわ。だから私、彼の手をとって、ずっと傍に居たの。彼も私も言葉を交わせるような状況じゃなかったわ」
 アルマはその時の光景を思い出して恐怖を再び感じた。血も凍り付くような虐殺がリオファネス城では繰り広げられていた。その真っ只中にアルマとイズルードは取り残されていた。そのような惨劇の中、彼らは互いに何も言うことも出来ず、ただ孤独と恐怖とをふさぎあうように寄り添っていた。
 再びおそった恐怖に身をすくめ、アルマは兄に抱きついた。目を閉じていても、脳裏にあの光景が浮かんだ。
「そうよ、私たちの間には何もなかったわ! 何もなかったのよ! あの時の私は修道院を出たばかりの何も知らない少女で、彼も教会のために命を捧げてきた人だった。私は兄さんに会いたくてずっと泣いていたし、彼は残してきた仲間のことを気にしていた。それに、あんな惨劇に見舞われて、お互い何の言葉を交わすこともなく別れたわ。だけど、今になって思うの。もう二度と会えないと知って、あれが、私の、初めての恋だったと気が付いたの。愛していたと気づいた時には、あの人は二度と戻らぬ人だったのよ……!」
 アルマは兄の腕に抱かれて泣いた。ラムザはこう言った。「アルマ、泣かないで、僕がずっと傍にいるよ」
「あの人は――イズルードは、私が初めて恋をした人だったの。だから、兄さんがあの香木を持ってきた時に、ふと、また会いたいと思ったの」
「愛を伝えるために?」
「いいえ、リオファネス城で、私の初恋はもう終わったのよ。昔の恋を伝えたかったわけじゃないわ。ただ……大人になって、綺麗になった私を、一度でいいから彼に見てもらいたかったの。ね、兄さん、あれから私はずいぶ大人になったでしょう?」
「僕の可愛い妹! 君は最高に美しいひとだ! 僕はもう二度と家族を手放すまい――誰にも引き離されることなく、僕たちはこの国で一緒に暮らしていくんだ――」
 兄妹は再び抱き合った。

 

 

2015.12.14