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ネバー・フォーエバー


     

  

 

 自惚れていたわけじゃない。ただ事実として自分こそがこの世界の中心に立つ人間だと思っていた。それ相応の努力もした、生まれながらの才能だってあった。貴族の地位もあった。そして教会のミュロンド派の騎士になり、教皇に仕える身となった。
 誰もがうらやむような人生だったと自負していた。清貧の騎士として何も望むものはなかったが、大方のものは手に入った――ただ一人、あの女性をのぞいては。
 彼女の名前はメリアドール。私の上司の娘で、教会の中でも聖石を持つゾディアックブレイブという最上位の地位を持つ。私が……唯一頭が上がらない女性だった。それは彼女が地位を持っていたからという理由ではない、彼女はとんでもなく気が強く、私の話す言葉全てに反論してきた。むろん、私も反論した。だが、最終的には、決まって彼女はこう言うのだった。
「クレティアン? それが何?」
 そして涼しい顔で去っていく。
 彼女はいつだって私の前を歩いていた。その背中に追いつこうと必死で、気がつけば――

  

 

「とうとう、私の手の届かない場所に行ってしまったな」
 私は間違っていた。己が世界の中心にいたなど、なんと愚かなことを考えていたのだろうかと。
 彼女こそがこの世界のヒロインだったのだ。

  

 

 聖石を持っていたのは、親の七光でもない、彼女が真に道を切り拓くしなやかさと力強さを持っていたからだ。
 私のかつて抱いていた理想は彼女がやがて為すであろう。できることならば、共に、背中を追い続けていきたかったが、もはや我が身は死せる都のはるか奥に。
「物語のヒロインはなべて聖杯を手に凱旋し、世に平安をもたらすものだ。――マイ・レディ・メリアドール、汝の行く末にとこしえの光あらんことを」
 全てを捨てた私にできることは、ただ祈ることだけだ。
 でも、心の底から、そうであれと願っているよ――――

  

2021.06.20
iva*fesオンライン ワンドロ企画:テーマ「ヒロイン」