.

  

  
ヘスの戦士

 
陶器のように透き通る白い肌
腰で波打つハニーブロンドの巻き毛
深く濃いルビーの瞳
同じ色をした深紅の口紅
長く垂らした漆黒の花嫁のヴェール
純潔の白百合を髪飾り
身体に巻き付けた燃えさかる炎の蛇

彼女はヘスの戦士
彼女のふるう鞭の一撃の前にはどんな戦士であろうとひれ伏す
強さと、美しさと、気高さを兼ね備えた完璧な戦士だ

「アルドールの男が私に気安く話しかけないで。私はヘスの戦士よ」
魔人フィーナ
それが気高き戦士の名前だった
俺は彼女に夢中だった――一目で惚れたのだった
誰よりも強く、美しいヘスの戦士を振り向かせようと必死だった
だが、俺が何度口説こうと、彼女は振り向きもしなかった
氷のような微笑みが返ってくるだけだった

「どうしてヘスの側についたんだ」
「しつこい人。何故あなたに答えなければいけないの。私が何をしようとあなたには関係ないでしょ」
「フィーナ! 俺はおまえと一緒に戦いたかったんだ…!」
「ああ、そう」
つんとすました顔
まるで興味がないという素振りだ
「あなたは自分が私と一緒に戦えると思ってるの?」
「……どういう意味だ?」
「私は強くない人とは戦いたくないの」
「俺だってアルドールの戦士だ! おまえだって王土のヴェリアスの名前くらいは知っているだろう?」

俺は王土のヴェリアスとしてアルドールの皇帝の下で戦い、誰もが俺の強さを認めた
ただ一人、彼女を除いては……

「それで? 私、弱い人は嫌いだけど、剣を持つしか能のない無粋な人はもっと嫌いよ。あなた……私の隣に立つにはまだまだね」
彼女は鼻でふふんと笑った
「戦士は強く、美しく、しなやかでなくては……」
そう言いながら俺の前から颯爽と去っていった――一度も振り返らずに

追いかけなければ
彼女は遠くへ行ってしまう――俺の手の届かない場所へ

もっと強くならなければ
もっと美しくならなければ
そうしなければ、彼女に追いつけない

そしていつの日か、彼女の隣に立って、二人で世界を見るのだ

あれから百年……二百年……七百年……
俺は一度も妥協しなかった
どこまでも力を求め、美を追求し続けた――全ては彼女にふさわしい戦士になるために

「見ろ、俺は誰よりも美しくなった。俺の美しさは世界が認める。だが――」

フィーナ
俺はおまえに認めてもらいたかったのだ

「――相変わらず、おまえは返事もしてくれないのだな……」
氷のように冷たいヘスの戦士
彼女は今や氷よりも冷たくなった――クリスタルへとその身を変えたのだ

「フィーナ……答えてくれ。俺はまだおまえの隣に立てないのか?」
土の神殿――しんとした静寂の時間
「ふっ、それがおまえの返答か。いいだろう。いつかおまえを振り向かせてみる。おまえの言った通り俺は執念深い男だ。七百年も待った。これからも待ち続ける――だから帰ってきてくれ。その時までに、俺はおまえにふさわしい男になっているからな……」

いつか、その日まで――

 

 

2017.10.07

  

・ジークハルトが超越したナルシストなのは、魔人フィーナに憧れてて追いつきたい一心で……とかだったらいいなと思いまして書きました。
・この二人は当初、戦士×戦士な王土×魔人コンビを想像してましたが、2章の展開を見ているとフィーナ×ジークハルトでは?!と思うように(笑