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・ハッピーバースディ・ディア・マイ・レディなメリアドールさんお誕生日SS(×クレティアン前提)

 

 

 

ユールタイド・ミスルトゥ

 

 

 
「メリアさん、お届け物です」
ラムザの手から渡された、小さな小包。
「誰から?」
「さあ、通りすがりの男の人から。名前も顔も知らない人だったけれど、ガリランドの士官学校の出身って言ってたから、僕の先輩だったのかも。覚えてないけど。メリアさんに直接渡して欲しいって頼まれたんだ。受け取りたくなかったら、受け取らなくていいって」
それはとても軽かく、手紙のようだった。けれど中には手紙は入っていない――緑色の、赤いリボンで根元を結わえた小ぶりな植物飾りをのぞけば。
所書きもなく、人づてに渡された小さな贈り物。
「何かしら、これ。よくわからないけれど、もらっておくわ。怪しいものではないと思うし」
おそらく、赤いリボンを見れば、きっと何か優しい気持ちがこめられていると思ったから。
なぜなら、今日は冬至祭の日だから。人々の間でささやかな贈り物が交わされる日だから。

「メリアドール、何をもらっただ?」
「草」
アグリアスが訊ねる。
「ふむ、見たことがあるな。白魔道士が杖にその植物を編み込んでいる姿を知っている」
「そう、戦闘用のアクサセリーかしら?」
「いや……冬至祭の飾りなのかもしれない。この季節になると実家にそれを飾りつけていた。あいにく、私はそういった趣向には詳しくなかったが」
「貴族の文化なのね。ラムザは何か知っている?」
「うーん、そういえば、冬至祭の日に同級生たちが配っていたかも。僕も何回かもらったことがあるけど、そういえば魔法の呪具だったのかな」
「じゃあ、ラムザ、あなたがもってたら? 隊で一番魔法を使うのはあなただと思うから」

「あら、それはミスルトゥね。だめよ、そんなに簡単に恋のおまじないを配ってしまっては駄目よ」
私たちの会話をそれとなく聞いていたらしいレーゼが笑いながら言った。
「ミスルトゥ?」
「恋?」
「まじない?」
私たちは、三人で同時に、顔を見合わせた。
この手の話題は、彼女が一番詳しい。
「このミスルトゥは、冬でも枯れない緑の植物ってことで生命力の象徴として扱われるの。だから白魔道士の人が愛用してるわね。でも、この植物にはもっと別の意味で使われることもあるわ――特に、冬至祭の日のミスルトゥはね。恋人のお守りなの。ミスルトゥの下では、女性は男性のキスを拒めないって伝説があるの。だから……ミスルトゥを贈られるってことは……その意味は、わかるわよね?」
「へぇ、素敵な伝説があるんですね……え、ってことはメリアさん、もしかして、プロポーズ?!!」
のんびりしていたラムザが急に慌て出す。
「そうか、恋人がいたのか、ならば私らに気兼ねすることなく二人で会ってくるといい」
「恋人なんていないから! 違うから! 返してくるわ、こんなもの……」
「あらあらメリアドール、ご機嫌ななめね。いいじゃない。だってこの日のために用意して、待っていてくれたのでしょう? その人は」

想いを伝えるために一年。
たった一日のために、一年をかけて準備をする。

そんな手間のかかったことをする人とは、性があわないに決まっている。
私はせっかちだから。

「――それで、たかだかミスルトゥを返すためにミュロンドにやてきたのか? しかし残念だな。君が風情のかけらもないあのような戦闘集団にいるとは。君らの若きリーダーが貴族の学校を出ていると知って、せめての望みをかけたが……世間知らずの坊やだな」
「ラムザはあなたほど、横柄でもなく、傲慢でもない。知ったような口をきかないで」
「その意思表示をするために、<これ>を返却するのか?」
「冬至祭のミスルトゥは受け取りません。そんな簡単に私に求婚できると思わないで」
「つまり?」

想いを伝えるために一年。
たった一日のために、一年をかけて準備をする。

私にはできない、その、深い気持ちにだけは答えてあげてもいい。
なぜなら、今日は冬至祭の日だから。人々の間でささやかな贈り物が交わされる日だから。

「今日は私の誕生日なので、誕生日の贈り物として受け取ります。ありがとう、クレティアン」

 

 

 

2019.12.24